始まりは2010年。『市民ポリス69』でのプロデューサーと助監督という関係。 そもそも当社は俳優事務所だから、映画製作は一本限りのつもり。菊地との付き合いもそこで終わるはずだった。 それから3年経って、突然映画やろうって思い立った時に、なぜか菊地の顔を思い出した。いろいろ迷ってカレにたどり着いたワケではなく、最初からカレだった。
なぜ菊地なのか?という謎が先日ついに解明。一銭の徳にもならないのに妙に菊地に肩入れするH氏に「なぜそこまで菊地に?」と聞いたところ、 H氏は即座に「人柄」と言った。ああ、そういうことだったのか。1年以上一緒に過ごす相手だもん、嫌なヤツとは組みたくないという防衛本能が働いたんだな。
ここだけ書くと、監督としての技量はどうでもイイ風に聞こえるかもしれないが、これって大事なこと。菊地健雄の武器だと思うのです。
普段キャスティングされる側にいる立場だから、そのシステムについては思うところが多々ありまして。 低予算でも自社製作にこだわるのは、どことの癒着も何のしがらみも無く自由に創作できるってこと。そこに尽きる。
今回は敢えて全員初対面の人で固めた。気心の知れた人たちとの安心感よりも、初めての緊張感を優先した結果、そうなっただけ。 経歴とか出演作品とか芸風は知らない方が、先入観なしでキャスティングできる。リスクはあるけど、そういう方が好き。
もう一つの人選基準は狙わなそうな人。「これはコメディーです」と聞いた途端にウケ狙いの芝居に走られちゃうと、急につまらなくなるでしょ。 菊地監督との友情出演で染谷将太・菊地凛子ご両名出演というご褒美までつき、予算の割には非常に贅沢で新鮮な顔ぶれとなりました。
タイトルの『ディア―ディア―』は英語表記で『Dear DEER』となり「親愛なるシカ」を意味する。
私事で恐縮だが、当方2008年に父親を亡くし億単位の負債がある会社を長男として後継した。2010年に人気のももクロを起用し映画製作に乗り出すも、 公開直前に発生した東日本大震災の影響で不入り赤字。起死回生の本作は「借金苦の長男:冨士夫役」に自身を重ね合わせ企画。 長男の重責も多額の借金も非常に重いモノだが、一方で新たな道を築く転機にも成り得るということを実感。 三兄妹にとって本来は忌み嫌うべき存在のシカに対し、皮肉を込めて敢えて「親愛なる」と形容した。
監督や脚本家に反対される中、このタイトルを貫いたのはそんな個人的な事情でした。ゴメンナサイ。
こういう宣伝がしたかった。予算が無いってのもあるけれど、プロの宣伝チームには出来ない手作りの良さがある。 特報に「もシカしてレイトショー」というコピーを入れた時、「上映しないかもって思われないか?」などと心配されたが、それはそれでいたシカたない。 前売券の特典が「シカせんべい」になったのも当然の流れだった。ただ、数量限定というか賞味期限があるから、品切れの際はあシカらず。
テアトル新宿に幻のシカを展示。シカは古来から神様の使者、特に白シカは長寿の象徴、風水的にはシカを見ると金運アップなんだとか。 長寿と金運祈願にテアトル新宿にシカを観に行くのはどうだろう。新宿に新たなパワースポット誕生かも。
このシカ、もちろん栃木県あシカがで捕獲されたもの。そうそう、予告編は「たシカにレイトショー」にしたのでご安心を。
<文責:桐生コウジ>